事前確定届出給与を使った決算対策
基本的に法人においては役員に対する報酬は定期同額給与(毎月決まった一定額)以外は損金として認められないのですが、事前に支給額を届け出ることにより臨時的な給与も損金として認められる制度があります。
これを事前確定届出給与といいます。
この届出書には支給日と支給金額を記入して提出するのですが、この届け出た金額以外の給与を支給した場合その支給額は損金として認められません。
例えば事前確定届出給与で支給額を100万円として届けた場合、50万円を支給したら50万円が損金として認められません。同じく150万円支給したら150万円が損金として認められません。
ただこれを支給額を0円とした場合にはどうなるでしょうか?
この場合は損金として認められない金額が発生しないので、課税所得には一切影響がありません。つまり支給しなくても税法上のペナルティーは一切発生しません。
しかしよく考えてみるとこれを利用した利益調整が簡単に出来るのではないでしょうか?
例えば3月決算法人の定時株主総会で、社長に対する事前確定給与を翌決算期直前の3月に300万円支給する決議をして届出をしておきます。そして決算期直前で大きく利益が出そうなら事前確定給与を支払い、あまり利益が出そうにないなら支給しないようにすれば決算対策としてかなり有効です。
この本ではP130で
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届出通りに支給しなかった事につき正当な理由がある事を税務署に通知し事後のトラブルを回避する意味でも、臨時改定事由による変更の届出の届け出を提出すべきと考えられます。
としています。
またこの本ではP182で
徹底解説 役員給与―法的根拠・判例・最新通達に基づく税務・会計・法律の取扱い
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特段の事情もなく、こういった行為を繰り返すことは、「損金枠の事前確保」として利用される事を嫌うであろう事前確定届出給与の性格からすると好ましくない。そのため税務調査等において支給しなかった理由を厳しく追及される可能はある。
として
このような事例が頻繁に発生すれば、制度見直しにより、例えば翌期の事前確定届出を認められない措置が講じられる可能性も考えられる。
と述べています。
どちらの本も調査時のトラブルの可能性を指摘していますが、いずれにせよ現行法上ではこの手法を税務署がどんなに気に食わなくても否認出来る金額がない以上どうする事も出来ません。
ただ金子先生が述べているように現状では当局もどうする事も出来ませんので、今後事例が頻発するようなら法改正される可能性は大きいと思います。
今のところは現行法上は違法でも何でもないので、あとは利用するかどうかは個々の経営者の判断といったところでしょうね。