yoshida's blog

京都で税理士をしている吉田貢のブログです。

会社は誰のために

以前、本の売上ランキングで上位にあったので買ってあったのですが、あまり読む気が起こらず放って置いた本です。


会社は誰のために

会社は誰のために


この本は、伊藤忠会長 丹羽宇一郎氏と キャノン会長 御手洗冨士夫氏のお二人で経営についての対談をまとめたものです。(実際に対談したかは定かではありませんが・・・)

かたや潰れかかっていた伊藤忠を見事立て直した経営者、かたやキャノンをグローバル企業として確固たるポジションまでもって来た経営者、この2人の経営者に苦言を呈す人間など日本全国探してもあまりいないと思いますのであえて書かせていただきます。

丹羽さんも

自分が間違った方向に行きそうになったとき、あるいは無意識のうちに権力を振りかざすようになったとき、それをちくりとやる人間がトップには必要ではないかと思います。つまり諫言の士ということです。
「会社は誰のために」P163

このように言っておられますから。


まずこの本の全体に対する私の感想ですが、はっきりいってあまり面白くありませんでした。双六でいえば「あがり」のお二人が、お互いの経営自慢をして、それをお互いが褒め合うといったすこし気持ち悪さが残る本です。

以前、ビジネス誌(日経ビジネスだったかな?)で、この本をほめまくっていた若手財界人がいましたけど、まあはっきりいって下心丸出しでみっともないですね。


私は現役の経営者があまり大層に物事を書籍等で発言されるのはいかがなものだと思います。

なぜならその経営者に私心がなく、本当に純粋な気持ちで本に書かれたり発言されたりしても(このお二人もそうだと思いますが)、ご自身の会社の社員数万人の中で、ごくわずかの少数の人間がその経営者の話と逆の不祥事を起こす可能性が十分あるからです。(例:京セラの補助金不正受給事件)
そうなった場合には、「なんや○○さん、本では偉そうな事言っていても自分の会社がこんな事件起こしてるやん。」と本人にとっても不本意な評価を受けるからです。


まず丹羽さんですが、私は個人的には好きな経営者です。

しかし本の中で武士道がどうのこうのと言った挙句

親ができていないから、子供を躾けられない。それでいて、小さいときから英語を習わせ、九九を覚えさせる。土台ができていないのに知識ばっかり詰め込むと、テクニックだけ覚えてそこから先、物事を掘り下げて考えるような事もなくなってしまいます。
「会社は誰のために」P143

と、現在の教育と親を非難しています。
あの〜、今の教育制度をはじめ現在の社会に仕組みの大部分は丹羽さんの世代の方が作ったのではないですか?
また小さいときから英語を習わせるのは、英語を本当の意味でネイティブに話すには幼少期からの教育が必要と研究結果が出ているからです。
今の親がなぜ英語教育をさせるかというと、将来日本がだめになった時でも海外でちゃんと仕事が出来て生きていけるようにと思って親心でしているのだと思います。
そのような不安を今の子育てをしている世代が感じるのは、丹羽さん達の世代が孫名義のクレジットカードで贅沢三昧をして、借金の山を築いたからではないですか?
若い世代を批判するのも結構ですが、それなら巨額の公的債務を丹羽さん達の世代で解決してください。

また故事や歴史を持ち出してきて話をされるのはいかがなものでしょうか?私なら自分の知識をひけらかしている様で恥ずかしくてとても出来ません。


経団連会長に就任した御手洗さんのキャノンでも何年連続増収増益か知りませんが

偽装請負のコラボレート親会社、15年で年商10倍
 事業停止処分を受けた「コラボレート」が属する「クリスタル」グループは、労働者派遣や業務請負で急成長した。バブル崩壊以後の15年間で、年商を10倍近くに伸ばし、売上高が国内だけで5000億円を超える隠れた大企業だ。「コラボレート」が手がける製造請負はその中核部門だったが、「偽装請負」に対する批判の高まりや受注単価の下落により、抜本的な転換を余儀なくされた。
 クリスタルは1974年、京都市で設立された。当初は工場の清掃の請負が主な事業だった。やがて、メーカーの人手不足を補うため、製造請負に乗り出した。
 生産量の増減にあわせて人数を自由に調整できるし、人材育成のコストも減らせる。人件費を抑制したい不況下のメーカーにとって、製造請負は都合のいいことだらけだった。
 クリスタルグループは業績を一気に伸ばした。90年ごろ500億円余だった売上高は、国内だけで5000億円を超えた。グループ企業は昨春の時点で200社を超え、従業員は12万9000人を数えた。
 しかし、メーカー側の工場内を仕事場とする構内請負は、発注者側が直接、請負労働者に指示する偽装請負に陥りやすい欠陥を当初から抱えていた。厚生労働省は04年、偽装請負の取り締まりを強化。法令順守を求める世論も強まった。
 ところが、外注に慣れきったメーカーの中には、是正に消極的な企業も多く、工場という密室の中で偽装請負は温存された。
 同業他社との競争も激化する一方だ。クリスタル出身者が同じ業態の人材会社を次々と設立するなどノウハウの流出も目立った。賃金の安い外国人労働者との競争も激しくなり、昨年5月ごろから受注単価がどんどん下落していったという。
 昨年、クリスタルは、競争力アップを目指してグループ企業を再編。業態ごとの統合を進めた。製造請負を主な業務とする6社は昨年夏に合併し、コラボレートとなった。それでも製造派遣・請負の部門は今期、赤字に転落する見込みだという。
朝日新聞 2006年10月04日07時31分

この手の会社を使って

キヤノン偽装請負を解消 労災や保険の責任明確化

 キヤノンは31日、請負業者が労働局の許可なく工場などに人材を派遣する「偽装請負」を年内に解消する方針を明らかにした。偽装請負は、安全管理や社会保険契約に関する責任の所在が不明確な上、労働者のリストラにもつながりかねないと判断した。
 全国の労働局が2005年度に、キヤノンを含む約358社に偽装請負があると文書で指導していた。それを受けキヤノンは8月1日に対策委員会を開き、偽装請負の可能性がある部署を、人材派遣へ切り替えるほか、請負業者に保険加入の指導を徹底することにした。2万人以上の請負・派遣労働者から数百人を正社員雇用する。
 請負業者は本来、労働者を使い受託した業務を実行する。だが偽装請負は、企業へ労働者を送り込むだけの実質的な派遣業。無許可の人材派遣は違法である上、雇用主がすべき社会保険への加入や安全管理の責任があいまいになる場合がある。
共同通信) - 2006年7月31日21時42分更新

人を消耗品のように使って上げていった利益ではないのですか?

それでよく

会社は、そもそも社会的な存在です。社会と関わっていく中で利益を創出し、従業員の生活の安定や社会貢献に役立てていくという役割を担っているからです。したがって、社会の関わり合いなくして存在しないものです。不法行為は、それそのものが社会から逸脱している。そうした事業というのは、実業でなく虚業というほかありません。この点からも、トップは倫理観を忘れずにいてほしい。
「会社は誰のために」P178

なんて言えますよね。
御手洗さんから見たらキャノンで働く請負や派遣の人たちは従業員ではなく、単なる消耗品なのでしょうね。

流浪の民のように労務費の安いところを目指していくだけのやり方を、私は「焼き畑農業経営」と言っています。
「会社は誰のために」P187

だったら偽装請負や人材派遣などを使わず、人をきちんと雇用してください。国内で「焼き畑農業経営」をしているのはキャノン自身ではないのですか?


>2万人以上の請負・派遣労働者から数百人を正社員雇用する。

はあ〜、2万人の中からたった数百人ですか????


御手洗氏がこの本の中で言っている事とキャノンがしている事、あまりにギャップがありませんか?
CANONという社名は観音(かんのん)様から来ていると聞いています。おそらく創業者は観音様のような「慈悲の心」を持って経営をしていくという気持ちで社名をつけたのではないでしょうか?(これは私の推察です。)

コストが安いからといって請負・派遣を2万人以上使い、安い人件費で利益をあげていく姿勢は、創業者の思いとはだいぶ違うのではないでしょうか?

確かにこの問題はキャノンだけではなくかなりの数の大手メーカーが抱えている問題ですが、御手洗氏は経団連の会長でもあり、またこのような本を出版されているということもあり、あえて批判させていただきました。


本を読み終わって失敗したと思いましたが、せめてもの救いはこの本の印税がすべて寄付されるらしい事です。