yoshida's blog

京都で税理士をしている吉田貢のブログです。

先を読む頭脳

はてなの取締役でもある川崎さんの書評を以前読んでいつか読もうと思っていた本です。

先を読む頭脳

先を読む頭脳

ここでお断りをしておきますが、私は将棋についてはルールは知っていて一応出来るというレベルで丸っきりの素人です。

この本は将棋界の第一人者である羽生善治氏のインタビューを、人工知能的立場と認知科学的立場から二人の教授が解説しているものです。

この本の「はじめに」で早くも面白い話が書いています。
もし全知全能の神同士が将棋をするとしたら(一神教の宗教だとこの考え方自体が無いかも…)、最初にどちらが指すかで勝負が決まってしまい将棋自体が非常につまらないゲームになるという事を述べています。
チェスはコンピューターが一歩神に近づいているようですが、将棋においては、コンピューターはアマチュアレベルにあり、プロのレベルには届いていないようです。
現在、将棋においては羽生氏が最も神に近いレベルにおり、その神に近い氏から「なにか」を感じてもらうのが本書の狙いのようです。
この「もっとも神に近い」という表現はよく聞きます。
モータースポーツにおけるレーサーに対してもこのような表現をすることがあります。
例えばサーキットにおけるあるコーナーでは、物理特性等(遠心力、重心、タイヤのグリップ力など)からそのコーナーをまわれるスピードというものは最高速度が決まっています。(決めているのは神?)従って、誰よりもそのコーナーを早く回れるレーサーに対しての「神に最も近い」という表現を以前聞いたことがあります。
しかし「神に近い税理士」って言われる税理士はいないでしょうし、聞いたこともありませんね(笑)
それだけ棋士という職業は特別な職業だと思います。
本の内容は、「将棋ってこんな事を考えながらしているのか。」とある意味では意外な面が数多くあり面白かったです。(例:長考の時、何にも考えていないことがある。持ち時間により有利不利が出る。駒を動かしたくないときがある。コンピューターのように先を読む量を増やすのではなく、「読まない能力」を磨いている。)
この本を読んで感じるのは、羽生氏をはじめとする棋士の人たちは幼少の頃からコツコツと「将棋脳」を自分自身で育ててきて今のレベルまで来ているという事です。
従って羽生氏がいくら天才といわれる人でも、クリエイティブな仕事(例えばアートなど)や他の頭を使う職種である研究者やSE等で天才的な仕事が出来るかといえば、それはおそらく不可能でしょう。(ただし通常の人よりはやはり頭がいい人なのでそれなりの結果は出せると思います。)
幼少の頃から積み上げた膨大な時間とトレーニングにより、将棋において真価を発揮するように自ら育ててきた「脳」、ある意味での人間の究極の形(脳)かもしれません。
しかしITの進化が将棋の戦略にも影響を与えている(譜面のDB化による研究等)のは以前聞いたがありますが、その影響力の多きさは私の想像以上のようです。