yoshida's blog

京都で税理士をしている吉田貢のブログです。

新平等社会

忘年会が連続し少し疲れ気味です。

以前読んだ「希望格差社会」が良かったので、今回も山田氏のこの本を購入。

新平等社会―「希望格差」を超えて

新平等社会―「希望格差」を超えて

なかなか内容の濃い本ですので全体を紹介しにくいのですが、私の印象に残った所を2点引用します。

  • 現在の格差問題は搾取や抑圧といった不当な要因で生じているわけではない事。

豊かな社会では、消費者主権が働き、より良いものを安く提供するという圧力がかかる。グローバル化や情報化のおかげで、競争が激化する。ニューエコノミーで生じた定型作業労働者を正社員として安定雇用すれば、企業は国際競争に勝てない。大企業は可能かもしれないが、中小企業は耐えられない。何より、よいものを安くという消費者の欲求に応えられない。ファーストフードやコンビニの店員、配送やデータ入力作業者を正社員として優遇すれば、今の値段で商品やサービスが提供できなくなる。定型作業労働者は、「代わりがきく」がゆえに、雇用は不安定となり、その労働の市場価値は下がる。
一方で、ニューエコノミーにおいては、創造力や想像力、情報スキル、美的センスを身につけた生産性の高い人がでてくる。彼らは、たくさんの人の要求を満たしたり、満たす仕組みを作り出した人である。その生産性に見合った収入は上離れするだろう。彼らが活躍して、社会全体の幸福度を高め、その結果、多額の収入を止める理由はない。
「新平等社会」P117

収入の格差は先進諸国共通の現象であり日本だけの問題ではありません。(先進国では大学生の就職難、つまり大学を卒業した若者が生産性の高い職業に付こうとしてもそのような職種の募集は少ない。)そこにこの問題の難しさがあると思います。
また格差拡大を止めようとすると、人々の自由な選択(いいものや気持ちのいいものを安く自分の好きなときに選びたい)を制限する事になるという二律背反の問題が潜んでいます。
確かに個々の企業においては、一部の生産性の高い職種の人間とオペレーションを行う多くの低賃金の人間が必要であり、その組み合わせを否定したら経営が成り立たなくなる企業も数多くあると思います。

  • 未婚化の研究はタブー

日本で未婚化が生じる根本的理由が見えてきた。それは次の三点である。
1.女性は、結婚後、男性(夫)に家計を支える責任を求める傾向が強い。
2.若い男性の収入はオイルショック以降相対的に低下、そして近年は不安定化している。
3.結婚生活に期待する生活水準は、戦後一貫して上昇している。

結婚に当っては、女性は経済的責任を男性に求める。しかし、女性を満足させる経済力をもつ未婚男性の数は、1975年以降徐々に減っていく。一方、期待する生活水準は上昇する。その結果、男性に高い経済力を期待する女性、及び経済力が低い男性に未婚者が増えていく。
「新平等社会」P206

と著者は述べています。つまり最近の少子化の大きな原因である未婚化は、若い男性の収入の少なさが原因であると分析しています。そういえば最近、景気回復に伴い結婚する人が増えて出生率も若干上昇したというニュースを見ました。
しかしこの「低収入の男性が結婚できず、少子化につながっている」というロジックは、色々なところでタブー視されているようで、政府や自治体マスコミがこの事実を認める事をためらっているようです。このロジックは私も同感できます。著者はこのロジックを認めない限り少子化問題の根本的な問題は解決しないと述べています。
やはり国民の多くに格差社会は一層少子化が進むという認識が必要のような気がします。

最近は格差問題の本が数多く出版されています。私も買って読みますがなぜこれだけのこのテーマの本が出るのでしょうか?
私はやはりこの現象は、日本人の多くが格差のひどい社会を望んでいないためだと思います。アメリカを筆頭にしたグローバル主義や新自由主義は、やはり日本人には合わないのではないでしょうか。
しかし今後も日本と日本人はグローバル経済の中でしか生きていけません。グローバル経済の申し子でもある収入格差の問題をどのように解決していくかが今後大きな政治問題となるでしょう。

今回の山田氏の本は格差社会に対する提言も書かれており、一度読まれる事をお勧めします。