十年後に税理士は必要なくなるのか?
つい最近、週刊東洋経済が特集を組んだ記事がありました。
10年後、税理士や事務、営業などはなくなる? デジタル失業の時代が到来
http://news.livedoor.com/article/detail/7464298/
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そうか~、それなら税理士の私も今から転職の準備しないといけないなあ~
というのは冗談でとりあえず税理士としてこの記事に反論しておきます。
記事のベースにあるのはこの本ですよね。
- 作者: エリク・ブリニョルフソンMITスローンスクール経済学教授),アンドリュー・マカフィー(MITスローンスクール),村井章子
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デジタル技術の進化が人の雇用を減らしていくという社会の大きな流れについては全く異論がありません。
最近の大学生の就職難も今まで大卒がしていたホワイトカラーの事務的な仕事が、IT化の進展によりどんどん減ってきているという背景があると思います。
しかしそのデジタル失業の筆頭になぜ税理士を持ってきたのかよくわかりません。
根拠は記事では
日本でも2005年の国勢調査「日本の人口」をもとにした『2000→2005年の職業別就業者数の増減ランキング』によれば、ソフトウエアやネットの普及の影響により、会計事務員はその1割(実数ベースで31万人)と高い就業者減少比率が見られた。商品販売外交員、事務用機器操作員なども高い就業者減少比率だ。
とあります。
えらい古いデータを出してきていますが、私はボールペンで元帳を記帳していた時代から税理士事務所にいますからわかりますが、そら当然事務員の数は減っていますよ。
事務員が減ってきた理由
- 会計ソフトの低価格化と普及により会計事務所にまかせっきりだった記帳入力業務を各企業が独自にやりだした。
- 会計ソフト及び税務ソフトがよくなってきて税理士事務所における入力等の作業時間が減ってきており、また事務所の業務自体が効率化してきて事務員を大量に雇わなくても仕事をこなせるようになってきた。
- バブル以降、毎年企業数が減少してなおかつ企業規模もだんだんと小ぶりになってきて税理士事務所の業務自体が減ってきている。
私の事務所でも昔の税理士事務所とは比較にならないくらいの顧問先の数と業務量を少ない人数でこなしていると思います。またお客さんが減ればそれだけ仕事も減って事務員も必要なくなります。
ただ効率化したから会計事務所の収益が以前より良くなったかというとまったく逆で、会計ソフトの普及と税理士数の増加に反比例して顧問料の単価が昔と比べると大幅に下がっています。
収益という面では昔の方がはるかに良かったと思います。
ただ減ってきているのは事務員の人数であり、この昔の統計を根拠に10年後には税理士が不要とは随分乱暴な結論ですね。
また
一方で、コンピュータのおかげで文書事務が減ったことが一因で、事務や秘書、営業といったホワイトカラーの仕事が減っている。また、計算ソフトのおかげで、ソフト開発会社は儲かるが、会計士、税理士の需要はこの数年で8万人も減っている。
とあります。
会計士・税理士の需要が8万人減っているとは何の事かよくわかりません。税理士と会計士の数自体はむしろ増加しています。
確かに税理士業界は売上とか事務員などの従事人数は減ってきていると思いますが、それでも10年後にはいなくなるような減り方はしていません。
また計算ソフトの発展・IT化の恩恵は当然税理士・会計士も受けていて、特に電子申告の普及により以前と比較すると事務所の業務の効率化はどんどん進んできています。
税理士業等は税理士法第2条に以下のとおりに定められています。
(税理士の業務)
第二条 税理士は、他人の求めに応じ、租税に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする。一 税務代理
二 税務書類の作成
三 税務相談
2 税理士は、前項に規定する業務(以下「税理士業務」という。)のほか、税理士の名称を用いて、他人の求めに応じ、税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができる。ただし、他の法律においてその事務を業として行うことが制限されている事項については、この限りでない。
つまり税理士の業務は「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」であり、会計業務はあくまでも付随業務であり税理士の独占業務ではありません。
会計ソフトは付随業務である会計業務の仕事は税理士からどんどん奪っていって、税理士事務所における事務員の数は減っていくかもしれませんが、コアな税理士業務はそのほとんどが10年後に消えていく仕事ではないと思います。
たしかに税理士業界はいまや成熟産業・斜陽産業で、これから伸びていく業界とは言えません。漫然と旧態依然とした税理士事務所はこれからも厳しいでしょう。
しかしその中でも、お客様にしっかりとした税理士業務を提供できる事務所や顧客サービスに重点を置いて顧問先に喜ばれるサービスを提供している事務所、顧問先とのコミュニケーションに力を入れている事務所は今でも伸びていると思います。
10年後にソフトがすごく発達して税理士事務所の業務は大きく変わるかもしれませんが、いくらIT化が進んでも
- 税務調査の立ち会いにパソコンが立ち会うんですか?
- 税法の解釈でグレーな部分をパソコンが判断してくれるんですか?
- 税務署の決定に対してパソコンが異議申し立てするんですか?
- どのようなものが経費になり経費ならないかパソコンが判断するんですか?
- パソコンが相続の財産を調査して、財産を評価して、遺産分割協議書を作成して、相続税の計算を自動でするんですか?
- 経営者に経営のアドバイスをパソコンがするんですか?
- パソコンが節税対策を提案してくれるんですか?
人工知能が高度に発達して、コンピューターが人並みの判断能力を持ったら私たちも仕事が無くなるかもしれませんが、そうなったら他のほとんどの人たちも失業でしょう。
もちろん10年後も税理士の仕事は安泰とは私も全然思っていません。しかし事業規模は小さくなっても、色々なサービスをやスタイルを取り入れながら税理士事務所は必ず残っていると確信しています。
まあ今回はちょっとピンボケな記者が税理士は単純な入力作業しかしていないと認識の上で、センセーショナルな題名にしたくて一番最初に税理士という職業を持ってきたのでしょうね。